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仙台簡易裁判所 昭和63年(ハ)1439号 判決

原告 株式会社 ジャックス

右代表者代表取締役 山根要

右訴訟代理人支配人 松原和好

右訴訟代理人弁護士 宇野聰男

被告 菅野拡

右訴訟代理人弁護士 大野藤一

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金四二万八二八八円及び内金三八万二一〇八円に対する昭和六一年一〇月二八日から完済にいたるまで年二九・二パーセントの割合による金員を支払え。

第二事実の概要

一  請求原因の要旨

1  原告は、昭和五七年九月一五日、訴外三浦宏枝(以下「三浦」という。)との間に、つぎの内容の会員契約(以下「会員契約」という。)を締結した。

(一) 原告は、三浦に対し、藤崎ショッピングカード(以下「カード」という。)を交付する。

(二) 三浦は、訴外株式会社藤崎(以下「訴外会社」という。)及び訴外会社の指定する店舗等において右カードを提示し、所定の売上票にカードと同一の署名を行うことにより物品を購入し、又はサービスの提供を受けることができる。

(三) カードの利用限度額は、利用額の代金残高が三〇万円に達するまでとし、もし、その合計が三〇万円を超える場合はその超える金額については現金で支払うものとする。ただし、原告が特に認めた場合は、原告が指定する方法で支払うものとする。

(四) 三浦は、右カード利用による訴外会社等の代金債権を原告が三浦に代わり訴外会社等に立替払いすることを承認する。

(五) カード利用代金の支払方法は、三浦がカード利用の際に指定した一回払い、ボーナス一括払い、リボルビングクレジットの三通りとする。

(六) 支払金額はつぎのとおりとする。

リボルビングクレジットの場合は、毎月末日を計算日としてその時における累計代金残高の一〇分の一相当額と、累計代金残高に対する金利を合計した金額。ただし、累計代金残高の一〇分の一相当額が五〇〇〇円に満たない場合は毎月五〇〇〇円ずつ支払い、また、累計代金残高が五〇〇〇円以下の場合はその全額。

(七) リボルビングクレジットの手数料は、毎月末日の累計代金残高から新規購入代金(前月一日から末日までの分)を除いた金額に月利〇・八パーセントを乗じた金額とする。ただし、金利について金融情勢その他相当の事由が発生した場合は、一般の程度のものに変更するものとする。

(八) 三浦は、原告に対し、右カード利用代金及び手数料を毎月末日を締め切り日とし、翌月二七日に三浦の指定する預金口座から自動振替により支払う。三浦が原告に加入依頼する盗難保険の保険料は、カード一枚につき、二年間一六五円をカード利用代金と同様の方法によって支払う。

(九) 遅延損害金は年二九・二パーセントの割合とする。

2  被告は、原告に対し、昭和五七年九月一五日、三浦が本件会員契約に基づき原告に対し負担する債務について連帯して保証する旨約した。

3  三浦は、右カードを利用し、その代金の決済についてリボルビング方式を指定した。右カードの毎月の利用状況は別紙(一)利用明細表①及び②並びに別紙(二)一覧表①ないし⑤の「新規利用」「利用金額合計」欄記載のとおりである。

4  原告は、前記訴外会社に対し、昭和五八年五月三一日ころまでに前記カード利用代金を順次立替払いした。

5  なお、三浦の既払分は別紙(二)一覧表①ないし⑤の「入金額」欄記載のとおりである。

6  よって、原告は被告に対し、連帯保証債務の履行として、つぎの金員の支払いを求める。

(一) カード利用残代金 金三八万二一〇八円

(二) 未払手数料 金四万六一八〇円

(三) 右(一)に対する最終支払い期日の翌日以降の日である昭和六一年一〇月二八日から完済まで約定の年二九・二パーセントの割合による遅延損害金

二  争点

被告のなした右連帯保証における責任の及ぶ範囲はどれだけか。

第三争点に対する判断

およそ債務の保証責任の及ぶ範囲は当該保証の趣旨により定まるものであることは勿論であり、本件の如き継続的契約関係において将来生ずべき債務についての包括的保証の趣旨は、特別の意思表示のないかぎり、基本である契約の趣旨に則るものと解するのが相当であるところ、本来本件会員契約は、前記第二の一の契約内容特に会員規約第三項第二号に「カード利用限度額は、……代金残高が三〇万円に達するまでとし、もしその合計が三〇万円を超える場合はその超える金額については現金にて支払うものとします。但し、乙(注、原告)が特に認めた場合は、乙指定の方法にて支払うものとします。」とあり、これと被告が三浦から連帯保証人になるよう依頼されたときに説明を受けた「フジサキショッピングカードご入会のおすすめ」の「お買上げ限度額はお支払残高三〇万円まで、……」との記載内容を併せて考察すれば、三浦のカード利用限度額は、代金残高が三〇万円に達するまでとし、その合計が三〇万円を超える場合には、その超える金額については現金で支払いをなすものであることを本則とし、原告は利用限度額を超過して立替支払いをなすべき契約上の義務がなく、また原告が特別に認めた場合は、原告の指定する支払方法によることを取引の常態としているものであって、被告保証に係る立替金債務についても、会員規約第一項四号の「連帯保証人は藤崎ショッピングカード会員規約を承認の上、会員のカード利用により生ずる一切の債務について連帯して責任を負うものとします。」との定めにより例外的に利用限度額を超えてカード利用ができるものと予定されてはいるが、この場合においても速かに限度額を超える金額を請求し、前記の常態を維持することを予定しているのが、本件契約における客観的に明示された合意の趣旨とするところと認めるべきである。

したがって、別途に立替払契約が結ばれていないのに原告が三浦に対し利用限度額を超える金額の入金を直ちに受けることの処理をしないであえて貸越状態の継続を認めて立替払いをし、また速かな利用限度額を超える金額の入金を見込んで立替支払いをした場合でも、利用限度額を超える金額の入金がなされていないにもかかわらず、更にその後のカード利用についても立替支払いの方法により支払いを継続して、あたかも立替払契約が結ばれているのと同様に、利用限度額の定めがない恒常的な貸越状態を生ずるというような異常な事態は本件契約の本来予定しないところというべきである。

そして本件契約に基づく藤崎ショッピングに関し将来生ずべき三浦の原告に対する立替金債務の連帯保証人となった被告の保証責任の及ぶ範囲もまた前記の客観的に明示された契約の本来の趣旨に則り定まるものというべく、三浦の原告に対するカード利用限度額は三〇万円の範囲に限られるものであり、前示のような異常な恒常的貸越状態を生ぜしめた継続的立替払いによる立替金債務については、被告が連帯保証をなすに際し、右のような債務の発生を予見し、あえてこれについても責任を負う趣旨で保証をなし、または後に至って特にこれに対する保証責任を承認したものと認められないかぎり、被告の保証の及ぶ範囲外のものというべきであるところ、本件債務発生の経緯によれば原告の本訴請求に係る立替金債務は、契約の本来の趣旨を逸脱した事実上の債務という変則的事態に基づき発生したものというべきであるから被告の保証責任の及ぶ範囲外の債務というべきである。

三浦のカード利用額は、別紙(二)一覧表①ないし⑤の「利用金額合計」欄記載のとおりであるが、同一覧表①上から二枠目の昭和五七年一〇月末日までの利用金額合計が四六万七二〇〇円、締切日(昭和五七年一〇月末日)現在の利用残高が六四万八一〇〇円、同年一一月二七日、六万六二五七円を入金して元金残高が五八万三二九〇円となり、利用限度額が三〇万円を超えるに至ったものであるところ、更に三浦の入金額が三〇万円に達したとき、すなわち昭和五八年三月五日まで入金した合計三一万二四五三円(元金のみ)を弁済したことによって本件立替払いによる立替金債務は消滅していることが明らかである。

よって、原告主張の三浦の原告に対する本件立替金債務につき被告に保証責任があることを前提とする本訴請求は理由がない。

(裁判官 小松弘二郎)

〈以下省略〉

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